ハードコアテクノ団地

エンターテインメントに払う金は惜しまない

アンドロイドはやおいの夢を見るか?


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みなさん、良いやおい摂ってますか?

なかなか映画を観る回数が減ってしまった昨今ではございますが、今日は私の愛する「やおい映画」をいくつかご紹介したいと思います。ただしこの世には人の数だけやおいがございますので、ここではあくまでも私基準で「これはやおいです!」と判定が出たものであることを先にお伝えしておきます。

全て円盤化・配信化済で、公開してからある程度時間が経っている作品を中心に書いております。結構しっかりネタバレしていますのでご注意ください。もし未観賞であればタイトルとやおいポイントだけサーッと確認してピンときたらサクッと観る、これでいきましょう。やおいで大切なのは、勢いです。

今はまだ難しいですが、また以前のように映画館で自由に映画を観て、目の当たりにしたやおいに脳が付いて行けず、震える手でsomebody help!!!とTwitterで叫ぶとどこからともなく「アタシを呼んだかい?」とやおい仮面が颯爽と現れて、助けてくれるのかと思いきや、更に深淵に蹴り落として這い上がれないように土を被せてくる、そして気付いた時にはゾンビになってタイムラインをウロウロして次の獲物を待つ…、そんな乱暴で楽しいサイクルの日々が少しでも早く戻って来ることを、心から願ってやみません。

 

「新しき世界」(韓国:2013)

新しき世界(字幕版)

新しき世界(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

やおいポイント:ヤクザのおっさん同士によるトーマの心臓

 

じわじわスピードを上げると思ったかい?違うね!初っ端から飛ばしていくよ!

まずはこちら、6年前にシネマート新宿で観て以来、私を含めた大勢の人生を大きく変えて文字通り"新しき世界"を見せつけたこの作品から語りたいと思います。

主人公イ・ジャソン(イ・ジョンジェ:通称傾国様。チョン・ウソンとセットで清潭洞夫婦と呼ばれる。アジョシと呼ばれても返事しなさそうな俳優No.1)はうだつの上がらない警察官でしたが、カン課長(チェ・ミンシク:生まれ変わったら少女時代専属の運転手になりたいらしい。作中でも「お前ら少女時代か?」と言ったりと強火ペン)に潜入捜査を命じられて北大門組の組長チョン・チョン(ファン・ジョンミン:みんなの兄貴。歌唱力抜群のミュージカルスターな為、音痴な演技をさせても無意識にコブシが効いてしまい上手く聞こえる)に取り入り、やがて巨大犯罪組織ゴールドムーンの跡継ぎ争いに巻き込まれていきます。

皆さん、もうお分かりですね?新しき世界、我々が三度の飯より愛してやまない潜入捜査物でございます。ポスターをご覧ください、「"父"への忠誠か、"兄"との絆か」とあります。なんだその二択は。キャッチコピーが既にギトギトです。裏切り、絶望、復讐のトリプルコンボは免れないばかりか、潜入しているほうも、されたほうも誰1人絶対に幸せにならない、血湧き肉躍る最高のやおいです。

潜入捜査物の中でも新しき世界はとにかく、運命のいたずらで出会ってしまった男2人の間で交わされた情念が凄まじいです。イ・ジャソンは犯罪組織への潜入歴が長くなり、終わりの見えない仕事をこなしていくうちに段々と警察官であるはずの自分との乖離に悩むようになります。しかし上司であるカン課長は「いいからチョン・チョンにすり寄っとけ、終わったら昇進させてやるからよ。逆らったら警察に戻れなくさせるぞ」と半ば脅して無理矢理ジャソンを働かせます。身も心も限界のジャソンにチョン・チョン兄貴は、自身が騙されているとは知らず「お前は俺を信じていればいいんだ」と優しく励まします。きっとジャソンはその言葉に救われつつ、兄貴の冷酷な一面も知っているが故に顔色を悪くさせながら「でも俺の正体を知ったら、兄貴は俺を殺すんだろう」と思っていたはず。違います。違うんですよ、ここが新しき世界のミソです。作中の登場人物全員、当事者のジャソンでさえ見誤っていたんですよ、チョン・チョン兄貴がどれほどイ・ジャソンを愛していたのかを………。

今作はやおいポイントにも書いた通り「やくざのおっさん同士によるトーマの心臓」です。チョン・チョン兄貴はジャソンに出会うまで、片田舎のチンピラでしかありませんでした。そこに現れた潜入捜査官であるジャソンと共にヤクザの世界でめきめきと頭角を現し、本来ならチンピラで一生を終えるはずだった男はとうとう韓国最大の犯罪組織の次代会長候補にまで成り上がります。チョン・チョン自身もジャソンによって人生を狂わされた男であり、裏切られていると知ってなおジャソンを憎むことが出来ませんでした。そして警察官としてのプライドと義兄弟への罪悪感で雁字搦めになって動けないでいるジャソンに、自分を裏切り欺き続けてきた男に、「イ・ジャソン、これが俺の愛だ。お前には分かるはず」と言わんばかりの愛をジャソンに残します。潜入捜査官とヤクザという立場の隔たりを越えて愛されていたことを知る頃には、チョン・チョン兄貴はもういないのです。テーブルの灰皿の中にはあのひとの吸い殻がひとつ残る(坂本スミ子)です。

あと、チョン・チョン兄貴にはジャソンを自由にさせたい気持ちと、「この先死ぬまで俺のことを思い出すがいい」 という仄暗い欲望と、両方あったのではないかと思います。ただ、ジャソンを殺す選択肢だけは、彼の中に無かった。理由は単純明快、好きだからです。それ以外に無いんです。自分一人では絶対に見られなかった世界を見せてくれた、この世でたった一人の義兄弟を、チョン・チョンは心から愛していました。ヤクザの純愛ここに極まれり。そんな強大な愛ゆえに、裏切られた衝撃よりも「俺より優先させているものがお前にあったのか!?そっちのほうが許せん!!」という嫉妬があった気がしなくもない兄貴。もしもジャソンが素直に身分を白状していたなら、兄貴は今の地位を捨ててジャソンと一緒に高飛びしてくれたと思います。ゴールドムーンに大して思い入れも執着も無い彼がそこに留まっていたのは、北大門組の舎弟達と何よりジャソンがいるからだったんですよきっと。そして彼の目論見通り、警察官としての人生を捨て、チョン・チョンが生きた証であるゴールドムーンの会長席に座って一人煙草を燻らすジャソンは、チョン・チョンの亡霊と共に生きていくことになります。

こうして全てが終わり孤独に煙草を燻らすジャソンを見つめながら、ああジャソンは一人になってしまったな…としんみりする我々観客の気持ちを一気に打ち砕く、伝説の「6年前 麗水」。新しき世界の恐ろしさはここです。この二人がどうしてそこまで強い絆で結ばれていたのか、物語の終わりの始まりを見せつけられます。彼等の世界が永遠に閉じてブラックアウトするその瞬間を、その眩しさを、瞬きせずに観てほしい。

 

「激戦 ハート・オブ・ファイト」(香港:2013)

激戦 ハート・オブ・ファイト (字幕版)

激戦 ハート・オブ・ファイト (字幕版)

  • 発売日: 2015/06/19
  • メディア: Prime Video
 

やおいポイント:馬鹿だな、君は知らないのか。沈黙は癌のように育つ

 

こちら、通称悪魔監督ダンテ・ラムによる、筋肉と大型犬と小型犬とサイモンとガーファンクルが織りなす熱い作品、激戦 ハート・オブ・ファイトでございます。

かつて二度ボクシングのチャンピオンに輝くものの、八百長に関与してボクシング界を追放されたファイ(ニック・チョン:2005年公開のエレクションにて、船上でレンゲをバリバリ食べていたヤバイ人)、破産して自堕落になってしまった父親の面倒を見ながら、工事現場で働く元御曹司のチー(エディ・ポン:同監督の疾風 スプリンターにてチェ・シウォンと共演、年下である彼をオッパと呼ぶ強者。最近オ・セフンとツーシット撮ってた)。チーは人生をやり直すべく一念発起して総合格闘技MMAの出場を目指し、トレーニングジムに通う。そのジムで雑用係をやって食い扶持を繋いでいたファイが元チャンピオンだと知り指導を仰ぐが……という物語。

まずチーを演じるエディ・ポン、奇跡の大型犬俳優です。例えるなら、もうかなり身体が大きく成長したにも関わらず「小さい頃はずっとこうしてたもん……」と言わんばかりに飼い主の膝の上に無理矢理乗っかって寛ぐ、自分のサイズ感が分かっていない大型犬俳優界のトップです。チーはファイが元チャンピオンと知るや否や、どうしてもMMAに出たい!勝ちたい!師父!教えて教えて!ワンワン!と後ろをくっついて回ります。自分の可愛さを正しく理解しているとしか思えない、全力全開の可愛さでファイにおねだり攻撃を仕掛け、当然勝利。コーチングしてもらうことに成功します。

チーからの猛アタックでなし崩し的に始まった師弟関係ではありますが、チーの熱意と成長の目覚ましさに段々と引き込まれて指導にも熱が入っていくファイ。来る日も来る日も猛特訓に明け暮れ、そして何故か練習中チーにキスをされ、しかもファイも乗り気になって更にキスを強請るなど、これは…一体何の練習……?と観客をザワつかせるシーンもあり、我々やおい者は特に行間を読む必要の無い親切設計であることをお伝えしたいです。

凄まじい勢いで成長して試合でも着実に勝利を重ねていくチーですが、リングコーチにファイがいないと「師父は?師父は来てないの?」と不安げに尋ね、集中力を欠いて上手く試合運びが出来ず力を出し切れません。そしてとうとうファイ不在の試合で大怪我を負ってしまいます。ちなみにこの怪我シーン、そこまでねっとりクローズアップせんでも……!と思わず目を覆ってしまいたくなるような仕上がりで、さすが悪魔監督ダンテ・ラム、きっちり見せます。

試合出場が出来なくなったチーの代わりに、ファイはMMAに出場することを決意します。そしてチーに大怪我を負わせて王者になったリー(アンディ・オン:本物の格闘家のようなアクションで大活躍。とにかく凄い。アンディにもっと台詞を!)との対戦に向けてハードなトレーニングで自分を追い込んでいきます。

激戦は臨場感たっぷりな総合格闘技シーンも素晴らしいですが、ファイが居候するアパートで暮らす母子との交流がとても良いんですね。初めは警戒されて距離があった3人が段々と打ち解けていくわけですが、特に娘シウタンとの交流は…もうね…涙無しには見られないんですよ…!絶対幸せにおなり…!卵入りの月餅買ってあげるからね…!と嗚咽すること請け合いです。香港にまた1人天才子役が出てきたな、と震えました。彼女の演技も必見です。可愛すぎます。

そして最後になりますが、チーとファイに関しては割と本気で、こいつら絶対近いうち付き合うだろ、勿論チーからの告白で。という確信があります。しかも絶対幸せになるほうのカップルです。マカオで仲睦まじく暮らしてほしい。

 

「毒戦 BELIEVER」(韓国:2018)

毒戦 BELIEVER(字幕版)

毒戦 BELIEVER(字幕版)

  • 発売日: 2020/03/03
  • メディア: Prime Video
 

やおいポイント:信じられない、信じたい、知りたくない、教えてほしい

 

ジョニー・トー監督・製作の2012年公開映画「ドラッグ・ウォー 毒戦」の韓国版リメイクである毒戦 BELIEVER。原作版は麻薬密造に関与しているテンミン(ルイス・クー:キャリア最高の超クズ役で大活躍)、彼を掌で転がしながら自身も他人になりすまして潜入捜査をする冷徹なジャン警部(スン・ホンレイ:演技している人間を演じる、という2階層演技をサラリとこなす技巧派。笑顔が怖い元ブレイクダンサー)の二人と香港裏社会の大物達が大混戦していくストーリーで、登場人物同士の感情の機微にフォーカスせず、ただひたすら「どんな生き方をしても最後は死ぬ」という絶対の事実を見せつける、大変ドライな作風でした。

一方リメイクされた韓国版毒戦は、麻薬捜査官のウォノ(チョ・ジヌン:通称大韓民国イチの男。釜山が生んだ酒豪伝説。泣きの演技がすごい)と、見捨てられた組織の青年ラク(リュ・ジュンヨル:デビューして5年でここまで駆け上がったシンデレラボーイ。作品とキャラクターへの理解度がとても高い)の二人の関係にこれでもかとフォーカスしており、一転して大変ウェットな仕上がりになっています。ほぼ別物と捉えたほうが良いかもしれません。麻薬捜査官が元麻薬組織の男と手を組むことになり、捜査を進めていく中でウォノの中に「俺はこいつを信じられない、でも信じてやりたい」という同情心のようなものが芽生えます。彼をずっと観察していたラクは、そんなウォノの心の変化を感じ取りながらも様子をうかがい、時に揺さぶりをかけます。

私が毒戦を観た時のウォノの第一印象は「空洞みたいな人だな」だったんですね。大きな身体を持て余しながら空っぽなまま生きている人で、しかもそのことに自覚が無さそうに見えた。この作品はウォノという人間が自分が抱える空洞の存在に気付いてしまってから、これまでのように生きていくことが困難になるまでを、その混乱を描いています。そして混乱したままひとつの答えを出すことになる、その全てのきっかけが組織に見捨てられたラクだったんです。

ウォノのラクへの気持ちとしては「お前と出会わなければ、俺は今まで通り生きていられたのに」だと思っています。自分の空洞を知ってしまった以上、ウォノはもう今までのようには生きられなかった。自分自身の空虚に耐えられるほど、ウォノは強い人間では無かったんですよね。

一方ラクは「理解しすぎている人」という感じでした。ウォノが自分が優位であることをラクに示そうと躍起になって胸ぐらを掴もうが手錠をはめようが、ラクは常に冷静で、むしろ生殺与奪の権利は首を絞められているラク側にあるように見えます。というか実際にウォノの手中に何も無いんですよね。それでも引くに引けない虚栄心だけが彼を突き動かし、ラクはその様子を心底不思議に思いながら「この人は一体何なんだろう」と惹かれると同時に、ウォノの孤独とアイデンティティが無い自分自身を重ねて共感を覚えていました。

ラクはウォノ以上にウォノが欲しいものを分かっている人だし、彼の空洞を理解してくれる唯一の人だったけど、一緒に生きていくという選択肢はお互いに用意出来ませんでした。まるで映し鏡のような二人は、結局直に触れ合うことは叶わないのです。運命の人が自分を救ってくれるとは限らないんですよ。それでも運命なので出会ってしまう……今回の記事で紹介する作品の中で、毒戦は最も虚しさが際立つ一本です。飢餓感に気付かなければ走り続けることも出来たが、気付いた途端、もう足が止まってしまうんですよ。でも目の前にいる、恐らくこの飢えを満たしてくれるであろうラクを食べる方法も分からず、ただわけも分からず涎を垂らして飢えに苦しんだ挙げ句、ウォノは遂にラクを噛み殺してしまう。まてよ、神話か?

未だにウォノについては考え出すと一向にまとまらず、答えが出ないまま、ずっと頭の片隅に居座ってしまう、そんな人でした。耐え難い自身の虚しさに向き合わざるを得なくなってしまった人間の、途方も無い寂しさが骨身に凍みる作品です。

 

「金の亡者たち」(韓国:2019)

金の亡者たち [DVD]

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やおいポイント:いきなり恋してしまったよ 夏の日の君に

 

今まで色んな映画を観てきましたが、特にコメディ物ではないのにも関わらず「この映画の話をしようとすると笑ってしまって中断してしまう」という稀有な作品は、後にも先にもこの「金の亡者たち」だけです。

今作のやおいポイントとしましては、主人公イルヒョン演じるリュ・ジュンヨル総受けの、世にも珍しい五角関係映画であるところです。五角関係とか聞いたことあります?なんとこちら、総勢4人もの男がイルヒョン目掛けて猛突進猛アピールしてくるんです。一見メチャクチャになってしまいそうなところを見事に捌き、ひとつも破綻させることなく男達との関係を清算する、リュ・ジュンヨルの手腕の鮮やかさたるや職人技の域。しかもまたリュ・ジュンヨルが登場する男全員とフラグを立てまくるわけですよ。中でも突出してヤバイ男なのが、そうですユ・ジテ(ユ・ジテ:本人役では無いけどもうユ・ジテで通します)です。彼は登場シーンからもうね、もう…すごいんですよ。もう、ムワァッ…………です。スクリーンから湯気が立ち上らん勢い。そして出てきた瞬間、ユ・ジテの横に「絶対にセックスをするぞという強い気持ち」という力強いキャッチフレーズが見えるんですよね。正気の沙汰とは思えぬキャッチーさですが、ご覧頂ければ分かります。ただそこに現れただけで「なるほどこれは近々寝るだろうなあ」と観客に悟らせる力がユ・ジテにはあります。是非彼のその強い気持ちを感じてください。ちなみに作中、どう見ても事後って感じのシーンもあります。あと基本ポーカーフェイスの彼が唯一バチギレするシーンがあるんですけど、その理由が面白すぎるんですよ。頼む。観て。私はこれ以降、ユ・ジテを見ると笑みが止められません。

今作ではユ・ジテ(セックスシンボル)を筆頭に、年下同期ウソンくん(健気大型犬わんこ)、ジチョル(金融監督院の“猟犬”)、ダニエル(モテ男とひと夏のアバンチュール)と攻めのレパートリーも豊富に取り揃え、観客のニーズに幅広く対応する姿勢が好印象です。特に年下同期ウソンくんとのラブは王道タイプなので、誰が見ても安心してキュンとくること請け合いです。年齢は下だけど同期なので、砕けた態度でイルヒョンのことを「アジョシ」と呼んだりします。それでいてイルヒョンの変化を敏感に感じ取れる、察しの良い子です。ウソンくんもイルヒョンじゃない人を好きになれば心穏やかでいられただろうに、イルヒョンを好きなばっかりに…。

あと問題はダニエルですね。ダニエルはこの作品で1人だけ出版社が違うような、なんか飛び抜けてアバンチュールなんですよね。あとここでもまたどう見ても事後って感じのシーンがあります。多くない?オースティン・パワーズか?

そして全てを器用にもまとめあげ、「色んな男と寝たけど…やっぱりお前が1番いい」と言わんばかりに物語は収まる所に収まるのです。リュ・ジュンヨル以外では成立しなかったであろう、妙な器用さでもってまとめ上げられてしまった、バランス感覚がそこそこ狂っている映画です。観たあときっとあなたも「ダニエル〜〜〜!!!!」と叫ぶことでしょう。

余談ですが、主演のリュ・ジュンヨルはこの時、金の亡者、毒戦、リトルフォレストの3作品をほぼ同時期に撮影するという鬼のようなスケジュールでした。少し早めに金の亡者が終わったそうなのですが、毒戦撮影中に誕生日を迎えたジュンヨルにユ・ジテがコーヒーカーを差し入れしたそうで、その時のメッセージが「お金をたくさん稼ぎなさい」だったとのこと。なにそれ……ラクの誕生日を祝うユ・ジテ………もう……もう………!ユ・ジテ〜〜〜〜〜〜!!!!!!

 

名もなき野良犬の輪舞」(韓国:2017)

名もなき野良犬の輪舞(字幕版)

名もなき野良犬の輪舞(字幕版)

  • 発売日: 2018/10/03
  • メディア: Prime Video
 

やおいポイント:何も言わず逃げるように飛び去る姿さえ美しいなら

 

2010年代を代表するメロ映画のひとつ、名もなき野良犬の輪舞。ここでは原題の「不汗党」と書かせて頂きます。

2013年の「新しき世界」で描かれていた、強すぎる絆によって運命を狂わせていく男達の物語から4年後に登場した不汗党。正直、これをやおい映画として挙げようか迷いました。不汗党はやおい映画と言うより、「恋の変容を描いた恋愛映画」だからです。しかし一口にやおい映画と言っても様々で、直球の恋愛物と言える作品もあれば、恋愛関係に括れない関係を描く作品もあります。例えるなら、スクリーモの中に激情派と叙情派が存在するようなものなのです。これはなんとなく雰囲気でお分かり頂ければ大丈夫です。あと単純に私が不汗党の話がしたかったので入れました。

もうとにかく申し上げたいのは、恋は実に恐ろしいものです。おっかねえです。恋はその人の行動力をどこまでもブーストさせ、当の本人すら想像つかないような、後戻り出来ない所まで突き動かしてしまいます。そしていつも気が付いた時には何もかもが手遅れなのです。

主人公の一人であるハン・ジェホ(ソル・ギョング:あまりの色気に韓国の不汗党ファンから人間セックスと呼ばれる人。映画ごとに全く別人のように化けるタイプ。不汗党出演以降アイドルとしての人生を歩み始めた)は、人の愛し方を知らない男でした。好きな人に好きだと伝える術を持たず、ただ手に入れたいと駄々を捏ね、目障りな存在があれば何も考えず雑草を抜くように排除してしまいます。その中に美しい花の芽があることが、彼には分からないのです。

もう一人の主人公であるヒョンス(イム・シワン:本物のアイドル。その美貌もさることながら、様々な感情を綯交ぜにした凄い表情を見せる)は、そんな男からほぼ衝突事故のように愛されてしまいます。ヒョンスは何も悪くないんですけど、あのジェホからの恋慕に気付きながら(気付いていないわけがない)、拒絶も許容もせず生殺しにした挙げ句、利用しようとしたのが完全な悪手でした。ジェホに対する侮りと驕りが招いた結果ではありますが、それにしても、ヒョンスが払わざるを得なくなった代償はあまりに大きい。

でも最後のジェホの言葉に対して、憐れむでも怒るでもなく、関心無さげにおざなりに頷くだけだったのが、ヒョンスは最後までヒョンスらしかったというか。そもそもあの場面でのヒョンス、ジェホの声が聞こえていなかったんじゃないか?と思ってます。ラスト少し前にジェホがヒョンスの耳のすぐ横で銃を発砲して負傷させていたので、聴力に異常をきたしていた可能性が高いのではないでしょうか。耳鳴りの向こうでジェホが自分に向かって何かを語りかけているけど、聞き取れないしもう全てどうでも良くて、彼の最後の言葉を聞き逃したままその口を塞いでしまったんじゃないかと。「この先誰のことも愛すな」という告白は遂に誰にも届かない言葉になった。もう、どうあっても成就しなかった恋ですが、ジェホはジェホなりに自分の恋を完遂したんですよね。それが救いだったかは別として。

余談ですが、劇中でジェホがヒョンスに語った生い立ちに関する話は実体験ではない説がとても好きなので、ジェホのアレは「複数の他人から聞いた体験談をめちゃくちゃに繋ぎ合わせた創作物なので、日によって話の内容が違う」というのがmy設定です。オセアン関係者などの実体験から着想を得ているので、ヒョンスに嘘だとバレる可能性も大いにあるんですけど、ジェホはそれでも構わなかったと思います。ジェホにとっては真実かどうかは重要なことではなかったので。

そしてこの不汗党では新しき世界では描き切れなかった、男性同士の膨張しすぎてどうにもならなくなった感情を、「これはあくまでも友情です」というようなセクシャリティのエクスキューズ無く描き切っています。曖昧なものを曖昧なまま、恋愛感情に含まれる美しさも仄暗い歓びも全て生々しくパッケージングされていて、それが物語の進行と共に変容していきます。血と暴力の匂いが濃厚な、恋の映画です。きっとこの先韓国映画史を振り返った時、ひとつの転換点になっているのは間違いないと思います。

 

「ミッション:アンダーカバー」(中国:2017)

やおいポイント:悩まない潜入捜査官と悩める元潜入捜査官

 

潜入捜査物の醍醐味と言えば、そうです、捜査官の葛藤ですよね。警察官としての職務を全うしなくてはならない使命感と、潜入先で親しくなった敵達に対して段々と芽生える罪悪感と、いつ命を奪われるとも知れないギリギリの精神状態が続く日々……というのが様式美ですが、こちらのミッション:アンダーカバーは少し違います。

一体何が違うかと言いますと、まず警察官の身で麻薬組織に潜入する主人公カイ(ホアン・シュアン:通称国民の初恋。2017年公開の芳華-youth-にも出演。こちらも傑作)が、とにかく一切悩まない。警察である自分のアイデンティティが絶対、麻薬組織の人間は全員クズ、同情の余地無し!と大変強いハートの持ち主。しかもカイさん、自分を陥れようとした男の家に侵入して奥さんを人質に取り、照明がついていない部屋で傍に銃を置いたまま麺を啜って男を待ち構えるという、それ普通なら悪役がやるやつだよね……という行動をとるところが素晴らしいです。その真面目さゆえにヤクザ者が板に付きすぎて、ヤクザより恐ろしい人間になってしまうという、かなりヒール寄りのキャラクター設定の潜入捜査官…これはなかなか貴重なのではないかと思います。この世に存在する潜入捜査官物の中では断トツで潜入捜査官向きの男が出てきましたよ。情などに全く流されないプロフェッショナルの仕事です。

そうは言っても、やっぱり潜入捜査官物には葛藤が欲しいじゃない…?とお思いの皆さん、どうかご安心ください。この悩まない主人公カイさんに指示を与える上司であるジェングオ(ズー・フォン:元美術教師で趣味が書道と篆刻という、ときめき要素満載の俳優さん。最近監督業もやられてます)は、なんと元潜入捜査官。その昔、自身が潜入していた麻薬組織のボスであるホーク(ドアン・イーホン:2017年公開の迫り来る嵐に主演、これも超傑作サスペンスです)から絶対の信頼を得ていましたが、最後の最後に正体を明かしていざ確保!というところで運悪くホークの身重の妻を殺してしまいます。そのまま潜入捜査の現場からは引退しつつ、部下であるカイをホークの元へ潜入させるジェングオ。当然復讐心に燃えまくっているホークは、ひょんなことからカイとジェングオの繋がりに気が付いて……?勘の良い皆さんはもうお気付きのことと思います。そうです、ミッション:アンダーカバーのやおいポイントはジェングオとホークが担当しております。 祭り会場はこっちだったぞ〜〜!いそげいそげ〜〜!!!という気持ちで二人の因縁を見守ってほしい。ここだけ正統派潜入捜査物です。

やおい物としては勿論ですが、随所にあるガンファイト、車vs人間の大乱闘、バイクを使った見たことのないアクションなど見どころ満載の良作です!とにかく主演のホアン・シュアンが動ける俳優さんなので、アクションも見ていて気持ちが良いんですよね。ちなみに北京舞踏学院ミュージカル科出身で、ダンスがめちゃめちゃ上手いです。今後の活躍に期待しまくりの俳優さんです。あとエンドロールが傑作です。やっぱりこの人、潜入捜査官になる為に生まれたんだわ…と納得した気持ちで観終われる仕様になっています。

 

チェイス!」(インド:2013年)

チェイス!日本劇場公開版(字幕版)

チェイス!日本劇場公開版(字幕版)

  • 発売日: 2015/07/02
  • メディア: Prime Video
 

やおいポイント:お前は俺の切り札だ

 

シカゴで大人気サーカス団を率いる天才マジシャン、サーヒル。実は凄腕の金庫破りという裏の顔があった…。主演はボリウッド界の大スター、通称インドのエミネムことアーミル・カーンカトリーナ・カイフということで、もうゴージャスなダンスシーンは約束されているんですが、舞台がサーカス団ということも手伝って、ショーダンスシーンはアクロバティックで幻想的、ボリウッド×サーカスの相性の良さと主演二人の身体能力が高すぎて圧巻の一言。そらシカゴ中が熱狂しますわ。

そしてサーヒルを追う刑事ジャイ(オラオラ系実力主義刑事)と相棒のアリ(天真爛漫おふざけ系)はショー終演後のサーヒルを「お前が犯人だろう」と追い詰めるが、何故か証拠が見つからず混乱するジャイとアリ。サーヒルに隠された秘密、それは………

 

とにかく最後の最後まで観てくれ………………………(筆を置く絵文字)

 

ー終ー